「集中できない」「忘れ物が多い」「衝動的に行動してしまう」「仕事や学校でミスが続いてしまう」――こうした困りごとの背景に、ADHD(注意欠如・多動症)が関係していることがあります。
ADHDの治療では、生活環境の調整や心理社会的な支援、認知行動療法などとともに、必要に応じて薬物療法が行われます。薬はADHDそのものを「治してしまう」ものではありませんが、不注意・多動性・衝動性などの症状を和らげ、本人が生活上の工夫や支援を活用しやすくするための重要な選択肢です。
ADHDの薬物療法は何を目指すの?
ADHDの薬物療法で大切なのは、「症状をゼロにする」ことだけを目標にしないことです。
たとえば、
仕事や勉強に取り組みやすくなる
忘れ物やミスを減らす
衝動的な行動をコントロールしやすくする
人間関係でのトラブルを減らす
日常生活を自分で組み立てやすくする
といった、実際の生活上の困りごとを軽くすることが重要です。
薬によって症状が和らぐことで、本人が環境調整や生活上の工夫に取り組みやすくなることもあります。そのため、薬物療法は「薬を飲めばすべて解決する」というものではなく、本人の生活を支える治療の一つとして考えることが大切です。
日本で使われている主なADHD治療薬
日本では、主に以下の4種類の薬がADHDの治療に用いられています。
1.メチルフェニデート
中枢神経刺激薬に分類される薬です。日本では徐放製剤がADHDに使用され、成人にも適応があります。
効果が比較的早く現れやすい一方、食欲低下、不眠、頭痛などの副作用がみられることがあります。また、適正使用のための管理が行われている薬剤でもあり、医師の判断のもとで適切に使用する必要があります。
2.アトモキセチン
ノルアドレナリンの働きを調整する非中枢神経刺激薬です。小児だけでなく成人のADHDにも使用されています。
刺激薬とは異なる作用機序を持つため、症状や体質、生活状況などを考慮しながら選択されます。効果の現れ方は比較的ゆっくりで、吐き気、食欲低下、眠気などがみられることがあります。
3.グアンファシン
ノルアドレナリンの受容体に作用する薬で、非中枢神経刺激薬に分類されます。
特に多動性や衝動性などを含め、症状の特徴に応じて使用が検討されます。眠気、血圧低下、頭痛などが副作用としてみられることがあります。日本では小児期のADHDに対して承認されています。
4.リスデキサンフェタミン
中枢神経刺激薬に分類される薬です。日本では小児期のADHDに対して承認されており、18歳未満で治療を開始した患者では、必要性や安全性を評価しながら成人期も継続される場合があります。
「どの薬が一番いい」のではなく、一人ひとりに合わせて選ぶ
ADHDの症状は、不注意が目立つ人、多動性や衝動性が強い人などさまざまです。また、年齢、仕事や学校などの生活環境、睡眠、併存する精神疾患や発達特性、薬による副作用の出やすさなども人によって異なります。
そのため、「ADHDならこの薬」という一律の決め方ではなく、症状と生活上の困りごと、効果、副作用などを総合的に考えて薬を選択することが重要です。